京都に住んで9年経った(3)スーパー観光地に住むということ
春と秋になると、世間の雑誌は一斉に「京都特集」を組み始めます。そしてその季節になると、東京から「今度京都行くんだよね!」と誰かしら友人がやってくる。これは「京都移住者あるある」と言えるのではないかと思います。「ああ、ちょうど満開の頃でよかったねえ」などと知人をお迎えするのは、もはや年中行事です。

山ほど出ます、京都本
しかし正直なところ、移住して10年目ともなると、わたし自身はもう京都の桜や紅葉を毎年純粋に楽しむという気持ちはずいぶんと薄まってしまいました。綺麗だなあと思うよりも「さあ〜混む季節がきたぞ〜!」と覚悟を決めることのほうが先に立つものですから。だからこそ、シーズン真っ盛りに嬉々として街を歩いているレンタル着物のお嬢さんなどを見かけると、「いいなあ、楽しそうだなあ」と、その無邪気なワクワク感が羨ましくなることすらあります。
ホテル街に住まう
物理的にも心理的にも、せっまいせっまい箱庭のような京都だからこそ、「観光地としての密度」はダイレクトに日々感じられるし、街のドラスティックな変化もよく見えます。
わたしが引っ越してきた9年前は、オーバーツーリズムの波に乗って、小さなゲストハウスや民泊がポコポコと筍(たけのこ)のように生まれていました。それはもうあちらこちらに。「勝手に部屋をエアビーに開放することなかれ」と、まだルールの整っていなかった集合住宅でしばしば問題になっていたものです。
それがパンデミックを経て体力のない小さな宿が一斉に消えたかと思えば、今度は東山や少し離れた郊外に、日本人をハナからターゲットにしていないような一泊数十万円の超高級ホテルが続々とオープン。最近ではバンヤンツリー、カペラ、帝国ホテル。いつも「ここ、どこの外資ホテルが来るのかな〜」と思いながら通り過ぎていた二条の空き地は、シャングリ・ラになるようです。狭い京都の限られたパイを巡る陣取り合戦が、これほど至近距離で観察できるのもこのサイズ感ゆえでしょう。

ぎょうさん並んだはるなあ、しみだれ豚まん
まあ、そんなホテルにはもちろん一切ご縁のない我が家ですが、わたしのせっまいせっまいテリトリーでも、毎日ここが世界的な観光地であることを嫌というほど実感します。京都の街中に住むということは、すなわち「ホテル街に住まう」ということと同義ですから。
近所ですれ違う人は、体感で7割超えが外国人です。いや、もっとかな。
さらに夜遅めの時間のスーパーは、もう9割が外国人旅客。一日の観光を終えて、お惣菜や簡単に食べられるパックフルーツ、プチトマト、お土産の日本茶やスナック菓子を物色する人々で大繁盛しています。もれなく全員、片手にはGoogleレンズ(画面翻訳)。ここ数年は店内のレイアウトも観光客向けにマイナーチェンジされているし、当然、売っているものも変わりました。
むーさんが毎日乗るバスは、大勢の外国人でいっぱいです。特に学校帰りは、重いランドセルを背負って手すりを持ち、必死に踏ん張る我が子が気の毒になるほどギュウギュウなこともしばしば。外国人の荷物はデフォルトでバカデカいことが多いので、「巨大荷物をバスに持ち込むな」というサインが掲出されるようになりましたが、そもそも彼らは身体も大きい。おまけにバス自体も荷物置き場を増やした車体が多くなり、そのぶん座席が減ってますねん。来年以降、市民優先の「二重価格」にする計画も走っているようですが、現在の円安を考慮したらさして影響は無いような気もします。市民生活が圧迫されてストレスになることは、まあ多々あります。
ちなみに、ランドセルを背負ってテクテク歩く小さい子どもたちは、時折「舞妓さんばり」の注目を浴びるので、外国人から写真や動画を撮られたりもします。「まあ、かわいい!」という温かい視線ではあるものの、こういうご時世なので小学校からも指導や注意喚起が出ています。「京都の子」って感じの苦労だよなあ、と思います。
アフターコロナの京都
おそらくパンデミックは観光にものすごく影響を与えていて――これは個人的な体感ですけど、コロナ以前はまだ「京都を楽しんでもらう」スタンスが残っていたのに対して、今は「外国人が楽しい京都に変える」方向に、エグいほど針が逆に振り切れたような印象です。円が弱くなって、外資系の資本が増えたせいなのかなあ。
錦市場はコロナ禍を経てすっかり別物、風情のないギラギラの立ち飲み横丁みたいになってしまったので、花屋に行くとき以外は絶対に通らなくなりました。今おそらく中国人団体客はあまり来ていない状況なはずですけど、それでも錦はパッツパツです。
京都の街はあちらこちらを町家風にしつらえて観光客を待ち構えていますが、正直なところフェイクも多い。「そんなところに入らんでも……」と思うような観光スポットも増えました。最近ではすごい勢いで謎の刃物屋が増えているし、クソ高いラーメン屋も派手な街歩きデザート店も外国人観光客だけをターゲットにすることで生き延びようとしています。
世の旅行トレンドは「観光より体験」なので、小汚い店や狭い飲み屋などの末端まで外国人がいて、たとえいい感じのお店であっても「彼らに見つかっているか、見つかっていないか」が、地元の人間が使えるお店かどうかを大きく左右します。欧米の年配の団体客が数十人単位でゾロゾロとパチンコ屋に吸い込まれていくのを目撃したときは、さすがにわたしの想像力の範囲を超えた光景でギョッとしました。

雪の日の嵐山、年賀状写真を撮った
遠征で札幌、金沢、東京、大阪、福岡などの他都市に出かけることもありますが、日本中に外国人が溢れる街は数あれど、京都の「街の狭さ」と「世界的な知名度」が掛け合わされたときの外国人観光客の密度はちょっと別モノです。世界遺産のすぐ隣で普通に人が生活し、子どもが通学している。地元民の生活動線と観光客の距離がここまで近すぎるからこそ、あちこちで摩擦や揉め事が起きるのも「そりゃそうなるわな」と頷けます。
わたし自身は、旅行好きなので海外で逆の立場になることを想像して「やむを得ないな」と流せることも多い方ですが、まあ、日本人独自の衛生観念や礼儀などの価値観をもって現状を憂うとキリがないですよね。ワールドカップで試合後にゴミ拾う人たちの国ですから!外国人に「人に迷惑をかけない」「お行儀よく」みたいなモラルはどうしたって期待できないので、共存は無理っス。
あ、もちろんインバウンド旅客だけではありません。目立ちはしないけれど、日本人のお客さんも増えているなあと感じます。わたし、引っ越してきて初めて知ったんですけど、冬に雪が降ると日本中からカメラおじさんたちが始発で金閣寺に大集結するのね。あれ、何界隈って呼んだらいいのかな(笑)。外国人と違って、日本人の「京都ファン」はあらゆる角度があるので時にマニアック。何度も来る人も多いしね。
「京都らしさ」という難問
さて、こうしてスーパー観光地に住んでいると、やってくる友人たちから自動的に「京都の案内人」としての役割を期待されるようになります。これがまた、なかなかに難儀な問題。東京からわざわざやってくるような、ライフスタイル誌『&Premium』を読んでいるような友人たちは、すでにめちゃくちゃ京都に詳しいのです。みんな京都好きだよな、わかるよ、だってわたしも「京都だったらいいか」って引っ越してきたクチだから、そもそも。
人気のパン屋、銭湯や細うどん、純喫茶のたまごサンド、洒落たクッキー缶。京都の新店や注目店は日本全国の関心事でもあるので、こちらが紹介するまでもなく、好きな人はとっくに知っています。むしろ「今度京都に行ったときに」としっかり情報をキャッチしているので、「あー、あそこなー」と基本的に流し見しているわたしたちよりよっぽど熱心です。

ヤングの真っ白着物、死装束かよと着物クラスタに不評を買いがち

ディーンデルーカ袋、京都モデルは紫色
一方で、ベタに清水寺も、鴨川や貴船の川床も、化繊のレンタル着物を着て歩くのも、おばんざい朝食や抹茶スイーツもよく分かる。何に本当の「京都らしさ」が潜んでいるのか、それはもう人の数だけタイプがあるので全部正解です。
京都のコンテンツはグラデーションが広すぎるがゆえ、相手の「京都習熟度レベル」に合わせて、フェイクではない、かつガチすぎない最適な提案をするのが本当に難しくて、しばしば頭を抱えてしまいます。
手土産もまたしかり。
東京に行くときや、誰かが上洛した折にポンと渡すカジュアルなお土産には本当に難儀します。「ベタすぎず、マニアックすぎず、かつ東京未進出」という針の穴を通すような最適解を見つけ出すのは至難の業。もはや一周回って、キオスクで売っているド定番に回帰しつつありますわ。いやもう、なんでも東京にあるからええよな(捨)。
ちなみに、こんなものを渡したことがありました。
基本的に雑誌に載るようないかにも老舗な手土産はご自身でと思うし、わたしが買いやすいのも大事なポイントなのでとりわけ珍しかったり特別なものはない。一人暮らしや子連れなど相手の生活スタイルにも合わせて買いに行くのマジで大変よ。
お菓子、スイーツ
- Lindenbaumのチョコレートクッキー
- CHÉRIE MAISON DU BISCUITのビスキュイサンド
- 白 HAKU / おはぎ
- 京あめCrochet(クロッシェ)
- 京宇治茶ポップコーン(錦一葉)
- 有楽製菓「京都ブラックサンダー」
仙台の有名店が京都に移転。濃厚な美味しさで自分用も買う。プリンも買う。
易々と買えないので特別な気合いがいる。わたしはナチュールやパルミジャーノのシンプルなビスキュイのが好きかも。
祇園の料亭が手がける予約必須の洗練されたおはぎ。ここのお菓子は意識高すぎる系。
カラーリングが可愛い京あめはキラキラ好きなちびっこ用。
いかにも京都な緑色のポップコーン。京都駅前のサンドで買えて楽でいい。
定番中の定番ながら普通に美味しいのでよく買う。個包装でわけわけしやすかろう。ブラックサンダーも抹茶味もみんな好きっしょ?

鎌倉の人にあげたい鴨サブレ
スナック・つまみ
- 京都醸造のビール ×「踊るマサラ」スパイシーマサラカシューナッツ
- 天狗の横綱あられ ピリカレー(カレー味)
おつかれさん帰りの新幹線で一杯やってくれや、のおつまみセット。
軽くていい。そしてわたしが好きだから。
パン
- 二条クルス「パンドミ」
- 西利「甘麹熟成食パンAMACO」
わたしの一番好きなパン屋さんの食パン。もちもち系。パンが好きな人に食べてもらいたいので予約しておきます。
京つけものの西利が手がける、ラブレ乳酸菌と甘麹を使った体に優しいもっちり食パン。ギフト感大事。ラブレシリーズはお漬物もパケがおしゃれで良い。
日常グルメ
- 村上重本店 京つけもの
- 志ば久の「赤志ば」「蕗のとうみそ」
- 嵯峨豆腐森嘉の豆腐
- 藤原食品の納豆各種
- 本田味噌「あて味そ」
- 京都のカフェコーヒー詰め合わせ
- 京都限定「茅乃舎おだし」
- うすいえんどう(春季限定)、賀茂茄子
若干格上な空気感で店舗が少ないのが珍しくていいんだけど結局全国の高島屋にはあるからアレではある。
具材ごろごろ系しば漬け、包装紙がかわいいんよね。お味噌は春の限定品かな、わたしが蕗のとう好きなものですから。
冷蔵品を渡すシリーズ。時間があれば「平野とうふ」とか行くんだけど百貨店で買えるのでね、料理好きでこういうの困らない人に。
冷蔵品を渡すシリーズ。スーパーの地方色を好む人に。京納豆は大粒が特徴らしくてなんかめちゃくちゃ食べ応えあるし、いろいろ種類あるので面白いでしょ。

好きな人は好きな土産
酒のつまみに、ご飯のおともに。しょうが、ちりめん、山椒、納豆などのほかに季節限定も出る。小さくて一人暮らしでも消費できるぐらいのサイズ感がよい。
京都のいろんなカフェが出してるコーヒーのドリップバッグ、集めるとかわいい。大垣書店とか四条ハンズ行くといろいろ揃う。
茅乃舎は人からもらうもの。京都のは昆布ベースの上品なお出汁らしい。これはとにかく「わかりやすくて邪魔にならない」ので本当によく人にあげました!が、お値段が結構するのがちょっとな。

地域限定商売上手な茅乃舎さん
生野菜渡すシリーズ。関西の春に欠かせない豆ごはん用のみずみずしいお豆、これこそ他の地方にはなかなか売ってない珍しいお土産ですホントに。
困らない雑貨
- イノダコーヒのふきん
- 中川政七商店「かや織 京都ふきん」
京都の老舗喫茶のレトロなロゴ入りふきん。赤いポット柄の方。お値段お手頃でかわいい。イノダのオリジナルグッズはみんなかわいいよね。
京都らしいモチーフがあしらわれた、吸水性・速乾性に優れた上質なふきん。軽くて邪魔にならなそうな実用性重視。
世界中からガイドブック片手に人々が押し寄せる街に「暮らす」ということは、いろいろな人々の熱気に日常的にさらされ、波に揉まれ、時に案内人として頭を悩ませる、なかなか特殊なサバイバルでもあるとも言えましょう。
次回「京都住みの自意識」につづく。
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