おしらせと余談

【思い出】新装版 東京弁当生活帖。から3年経った

そういえば、2022年3月末発売だった書籍「新装版 東京弁当生活帖。」発売から3年が過ぎたようです。もうすっかり昔の話になりましたけど、ゼロから書いた本じゃないにせよそれなりにいろいろ思い出もあるのに、当時は子供も小さくてとても忙しくて全く裏側のエピソードをブログに書けなかったのはなんとなく心残り。『自著の改訂版を出す』って誰もが経験するわけじゃない貴重な出来事だから、きちんと記録しといたらよかったな、と今更ながら思います。昔の写真と所感メモが出てきたので3年経って少し整理供養させてください。

拙著「新装版 東京弁当生活帖。」は、2017年1月18日に発売された旧作「東京弁当生活帖。」にレシピを加え、内容を再編集して新たに発売された書籍でした。

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改訂版、はじまりの思い出

はじまりは旧作の激務をマンツーマンで乗り越えたスーパー編集、中島さんとのご縁。その夏頃に近況報告などしつつ、11月末に改訂版の話が持ち上がり、ご紹介いただいたKADOKAWAの編集さんやライターさんとZOOM会議をしたのが12月8日。わたしのDropboxに眠っていた書籍データを引っ張り出してきて最短コースでの作業で3月末に出版というとってもスピーディーな話でした。

中「ちなみに再編集のチームは料理雑誌の編集などされていた方々で〜」
私「いや待ってどうしましょうわたしは別に料理好きなわけではないんですが」

わたしが思わず怯えた業界の腕きき料理勢の皆さま。今回はあの有名料理家さんの元に長くいらしたフードコーディネーター様、全員知ってるあの料理番組誌の元編集長様とライター様のサポートを全面に受けて行うチーム戦となっておりました。改訂版だからと気軽に考えてたら話がおもてたより大きくてびっくりしたものです。

お弁当本というのは春の需要を見込んで2月には書店に登場するのが一般的。スタートラインが12月の我々は猛スピードで作業を進めなければなりません。ということで、12月半ばには早々に山場に突入して、今回の新しい追加パートとなる「レシピ」の部分をフードさんがざっくり書き起こしたものを、杉森が実際に作ってみて確認修正するというなんか以前にやったことのある地獄の100本ノックが実は行われていたのでした。

試作と消費とやりなおし

そもそもわたしは旧作のときに「絶対レシピとかやりたくないっす自分適当なんで」と頑なにその掲載を拒んでいた経緯がありました。まあこんなもんかな、で毎回味の定まらないとこも含めた適当さが当ブログのリアルですし、ていうか作るたびに適当にググって引っかかったレシピ参考にしてるし、人をインフルエンスするつもりもないただの趣味ブロガーで、さらには料理が特段好きなわけでもないのです。なので、旧作は弁当クリエイティビティの気持ちだけ込めて、その場限りのエンタメ的なラインナップでわたしの思う弁当の可能性をお届けしたようなイメージだったのでした。

ところが数年経って「再編集にあたって要望も多かったレシピつけましょう」なんて言われてごらんなさい。良かれと思ってクリエイトした奇抜なメニューが思わぬアダに。ああ!なんでわたしこんなややこしいものを作ったんだ!しかもどこのレシピを参考にしてこれが出来上がってるんだ!わからん!と、旧作でのちょっと変わった弁当の面白さが完全にブーメランとなって我が身を追いかけてきたわけなのです。さあ、困った。本当に困った。

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 icon-camera マフィンも作っちゃ食ってたなあ

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 icon-camera いまだに正解がわからないバナナケーキ

フードコーディネイターの皆様がざっくりレシピを起こしてテキストベースを作ってくださったのを、全部片っ端から試作しては修正していきました。味が薄かったり、上品すぎたり、あと一番多かったのは弁当にしてはちょっと汁気が多い、みたいなところ。逆にプロが出してきたレシピと比べてみると、わたしって無意識に弁当用おかずの作り方が染み込んでたんだなあー!って発見もあってそれはとても新鮮で勉強になりました。

旧作の試作のときにはどれも美味しくできたはずなのに、今はもうどうやって作っていたのか思い出せない。今回はレシピ掲載という重大な責任がある分、再現性のなるべく高い作り方を確立させないといけない。自由につくっていた旧作のときとは比較にならないほど試作が大変で、もう二度とやりたくないです(きっぱり)

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 icon-camera 簡単ビリヤニはもう試作がめんどくさすぎて超最後に回していた

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 icon-camera 子犬ぐらい重いタルトタタン

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 icon-camera なぜこんなものを作ったのかと昔の自分を恨んだ餅米シューマイ

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 icon-camera 交互に生地を編むことすら諦めたアップルパイ

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 icon-camera シェパーズパイはイギリスのパブで食べるに限るんだって

今回の試作は引っ越し前の小さな台所でね。前回は実家作業だったので消費する人もたくさんいたけれど、まだむーさんも3歳だし、食べる人もおすそわけする友人もいないし、なかなか難儀しました。何回つくっても味がブレたりイマイチ美味しくなかったりすることも多くて、ひとり急ピッチで完璧なレシピをご提供するのはちょっと無理だったな。

今でも「レシピは参考にしないでね・・・」って言うんだけど、スケジュールと自分のできる範囲でのおおまかな確認はしたものの、正直だいぶいまいちなレシピが多いと自認しています。それはめちゃくちゃ心残りだし、本当に申し訳ないなってあれからずーっと思ってるんだよね。はるみ先生とかが毎日毎日ずーっとアシスタントさんと試作ばっかりしてるのとかをインスタで見てると身に沁みます。本当にあれは大変な仕事ですよ・・・。

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 icon-camera レシピ原稿修正の一部。もう何がなんだかわからねえやつ

若気の至りコメント鬼修正

あと、試作のほかに大変だったのが過去の文章の添削作業。これはわたしがぜひやらせてくださいとお願いしたもの。若気の至りってブログにもありまして、いつものようによく考えずぱぱーっと書いた旧作の文章がクセつよすぎて全面的におとなしく書きなおさせていただきました。そもそもわたしの文章は基本的に口頭でしゃべっているのをテキスト化しているだけなので「書く」より「話す」が近く、流し書きで推敲もすこぶる浅いのですが、5年経って読むとそれにしても看過できない駄文っぷり。

もう「はじめに」の時点で「フーンと生暖かくごらんいただければ幸いです」とか書いてるけどそれは完全にネットギークのボキャブラリーなのよ(笑)あまりに死語が多く(切ない)、無駄にテンションが高く、最初に読み返したとき本気で「この子なにゆうてんの」と思いました、自分なのに。日本中に眠っている旧作をかき集めて鴨川の河原で燃やしたい、と冷や汗をかきながら黒歴史と向き合った次第です。

旧作新作の比較として一番面白いのは個人的にレシピの有無などではなく本文の改訂だと思っていて、わたしが大反省してせっせとほぼ全部のコメントをおとなしく無難に書き直しているところは古参の読者の皆さまにのみお楽しみいただけるポイントかと思います。ご覧ください、人間が歳とってカドがとれていくさまを。

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 icon-camera 深夜カフェでひたすら原稿直し(店内音楽をくるり岸田さんが監修しているGOCONC京都リサーチパーク店)

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 icon-camera ゲラが出来るとああ、やっとだなと思う

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 icon-camera ちなみにその頃は同時にこういう家のリフォーム作業も並行して走っていました(白目)

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 icon-camera 原稿を確認しては直すの繰り返し

あと、これまでブログで触れる機会がありませんでしたけれど、この頃にわたしの母が他界するという出来事もありました。しばらくして法事のあとにそういえば未開封だった母宛てのamazonの段ボールを開けると、中には予約していた箱いっぱいの自著が入っておりました。きっとまた旧作のときみたいに神棚に備えたり近所に配ったりするつもりだったのでしょう。子供が本を出すって、ちょっと変わった親孝行だったかもしれません。まあ、わたしもむーさんが将来本出したら20冊ぐらい買うわ。

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 icon-camera お母さんの頼んでたAmazonの本

気づきの多い改訂版でした

わたしごときの力量では決して売上としてビジネスに貢献できるものじゃないのですが、こうして形にしてもらえたことはとってもラッキーでした。しかも蘇って二度も!

再出版作業当時のメモを見てみると、こうあります。「下手にこなれて適当な弁当はいくらでもつくれるようになったけど、問題はそこからどうやって楽しみを導き出すか」「インプットしてないのホントによくない」「好奇心の衰え、だめ、ぜったい。いや好奇心はあるけど創意工夫につながっているかどうか」

若い頃って圧倒的にインプットが多くって、この本はそれをお弁当というかたちでアウトプットしたものだなあと気づきます。昔のわたしの弁当は好奇心でできているといっても過言ではありません。またアレ食べたいな作ってみたらどうかな、の衝動がこのブログのみなもと。

今は、まあ変わりゆく人生に沿った弁当のかたちではありますが、昔の自分がみたら「おい、どないなっとんねん」って言われそうだな。おもいがけず新旧を比較して、自らを省みる機会となった出版経験なのでした。

さて、今日も細々とわたしのライフログはつづいてまいります。

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